細野晴臣: MERCURIC DANCE

 ソースは細野晴臣の1986年の作品「MERCURIC DANCE」で、CDの16bit44.1khzをWaveUpConverterアップサンプリングして24bit176.4kHzにしたものと、UpConvにより192KHzにしたもの。Wavpack後の総サイズは176.4KHz版は1.37GBで平均ビットレートは3987kbps、192KHz版は1.76GBで平均ビットレートは5056kbps。演奏時間は50分。
 林の向こうから聞こえる鐘の音と、清水の流れる音ではじまるこのアルバムは、 その響きに耳を澄ましていくと、薄暗い日本の森の中にたたずんでいるかのような錯覚におちいる。
 このアルバムを聞くといつも谷崎潤一郎の「陰影礼賛」を思い出す。このアルバムのシンプルな陰で作り出される美は、細野氏が別アルバムで取り入れている外国のゆらぎの美とは明らかに違う。まさに日本の精神性に宿る美意識をおもわずにはいられない。
 のちに小坂忠氏との対談でこのアルバムが制作された時期にふれ「~世界も全部首突っ込んで、一通り迷路をグルグル回って、~でも、その時に得た知識は全然役に立たなくてね。全部捨てちゃった。」と話しているが、このアルバムに残された制作に向かった真剣さの跡は消えることはない。
 最近ではアルバムといっても曲を寄せ集めた程度のもの多いが、このアルバムは起承転結のような構成があって1枚としても楽しめる。最初の「水と光」で引き込まれて、いくつかの旅をしたあと、続く後半の「竜の道」のモチーフは、さらに次の「風の道」で解決され、最後の「空へ」で昇華していく。この様は爽快でもあり、聴き終わったあとに美しい余韻を残してくれる。
 音が美しいので、いつものディザなしWaveUpConverterがベストである。アップサンプリングにより音の密度は厚くなり、日本の美世界をより深く体験することができる。