中田悟:海の月光浴

 ソースはすでにこの世を去りし中田悟のCD「海の月光浴」で、16bit/44.1KHzをアップサンプリングして24bit/176.4KHzにしたものと、Upconvで24bit/192KHzにしたもの。176.4KHzの方のビットレートはwavpack後4262kbpsであるが、高域補間した192KHzの方は手持ちのライブラリでは自然音の特徴である高い方に入る6167kbps。

 このアルバムは中田悟の他の多くのものとは異なり、純粋な自然音だけではなくシンセサイザーが挿入されている。この自然音+音楽の形式の音楽は多くあるが、ほとんどの場合、音楽が不自然に浮かび上がったり強調しすぎたりする。そして一番ひどいのは駅のホームでときたま聞かされる鳥のさえずりのように、自然音が部品に成り下がる。

 しかしこれは違う。自然音が全くの土台となっている。それも高い技術と経験でしか得られないクリアなフィールドの様子が収められている。そして音楽は、その自然自身が語る歌を記録したかのように溶け合っている。これは実際に現場を体験した者にしかできないものだろう。

 前にも書いたが自然音は究極の音源である。オリジナルが超ハイビット音源故に、CDレベルではあまりにもチープな音に成り下がってしまう。自然から離れた都会で80年代以降、16bit/44.1KHzの音に飼い慣らされてきた我々であってもそれはわかる。

 アップサンプリングで復元されるわけではないが、再現されたその圧倒的な量の音の一端に浸り、自然の驚異を体験するのもたまにはいい。このアルバムではそのそら恐ろしくも迫る自然が、音楽によって存在、意義が与えられているかのよう。夜、誰もいない浜辺に繰り返し、荒々しく打ち寄せる波は、もはや単なる現象ではなく、親しさと良さを持ったものになる。中田悟の辿りついた世界はこんなのではなかったであろうか。